はさみをこぅ動かしていって最後にパチンと刃先を閉じて切り終わると、切っていた紙に亀裂が入る。
その亀裂が右に入るか左に入るかはわからないけど、でも必ず。
このことを教えてくれたのはアベ君だ。
アベ君は兄の友達で小学生の頃よくうちに遊びに来ていた。
明星か平凡の付録についていたブロマイド。忘れもしない南沙織の部分を切り取ろうとしていた時にアベ君がそのことを教えてくれたのだった。
亀裂と云ったって1cmも2cmも入るわけではなく、ほんのちょっぴり紙の表面に傷が付く程度なんだけど。でもそんな亀裂も許せないほどシンシアの笑顔は素敵だった。
そうやって細心の注意を払って切り取ったブロマイドを、私は勉強机の前の柱のところに画鋲で止めた。
亀裂はダメで画鋲はなぜOKだったか、今考えてもよくわからないけど。
あくる日帰ってきたらブロマイドが消えていた。
絶対に兄だ。兄もシンシアファンだ。確信がある。
応接間のソファに寝そべっていた兄に詰め寄った。
「ブロマイド取ったでしょ」
「知らないよ」
「嘘だ」
「持ってないよ」
「返してくれなかったらこのカルピスかけちゃうよ」
と、ここで唐突にカルピスが出てくるが、カルピスはその当時流行りのおやつだった。
そしてそれに対する兄の返事は
「いいよ」。
もうこれで決定。いいよって事は持っているって事で、カルピスの刑に処されたらブロマイドは自分のものになるという打算がこの一言に含められている。
そうして私は兄の体の上でコップを逆さにしました。
−−−−−
なんか最初に書こうとしていたのと随分違う方向に来てしまった。何を書こうとしていたんだっけ。ま、いか。
それにしても、飲み物を人にかけちゃうという発想をする子供って、どうなんでしょうか。将来を暗示していた事件だったような気がしないでもないでもないです。